日本文化と天災

2020年8月26日の日記より

日本文化と天災

以前にも少し書いたが、日本は天災王国であることは間違いない。世界で起こる地震の25%は日本で起こるとも言われているし、それの影響もあり火山性の山地が多く、全体的に急峻な国土を持っており、山地でふった雨が低地に急速に流れ込むという洪水を生み出しやすい地形も持っている。干ばつや低温、高温というものによる被害も歴史的にはあったが、これは日本特有の物とは言えない面もあり、やはり一番大きいのは四つのプレートがせめぎあう上に成り立っている地理的な影響による地震とそれによる国土の形状の問題が大きいのだろう。列島各地に火山が見られ、歴史的にも大きな影響を与えていると言える。江戸時代の富士山の噴火は凶作に繋がっただろうし、それに伴って政治の不安定さを引き起こしたと思われる。

また、治水は日本では特に古代から重要な政治分野であった。戦国武将でも、武田信玄や徳川家のように治水を上手くできる政治家が、国力を増やすことに繋げられた歴史がある。火山の噴火、地震の発生というのは今のところコントロールできていないのだが、治水というのは政治能力を左右する大きな要素だったのである。

ただ、一方で治水の効果というのは、今日工事を行ったからといって来月に効果が出るものではなく、ある一定年数、例えば30年とかそういったスパンでの評価が必要となる。特に現代におけるダム建設などは複数年、下手したら10年単位での工事となるわけで、予算編成から効果が発現されるまでの期間は長期となっていくものである。

こういった政治の根幹をなすような政策決定が、今の民主主義ではないがしろにされてしまう。それは人気投票化してしまい、短期的、目先の利益、こればかりがクローズアップされるからである。世界が民主化しているというのは、アラブの春運動以来言われている事ではあるが、民主化の危険な部分にも思いをはせる必要がある。ノスタルジックな事を言うわけではないが、ある意味では田中角栄氏が目指していた国土強靭化、という路線は戦後の強力な自由民主党という、現代の感覚で言うとおよそ民主的とは言えない権力集団があったからこそ進める事が出来た政策ではないかと思うが、これも長期的視野に立った国家運営という意味では必要なものだったことは明らかであろう。新幹線、高速道路の整備、ダム、堤防の整備、恐らくはその頃に急速に進展したわけで、その後の経済成長を文字通り足元から支える事が出来た。また、成長過程においてはインフレ効果を存分に享受でき、今の1億円の借金が10年後の1千万円(今の価値換算。実際には1億円のまま)の価値になると言う事で、国としても家計にとっても借金をする事が正義だったのである。日本の国家は文字通り強靭化した。

ただあまりにも成長のペースが速かったこと、また円高、製造コストの増大、それらの要因が重なり90年代に入りバブルが崩壊した。借金が正義の世界が終わったのである。90年代後半からは失われた10年とも20年とも言われるが、借金をすると損をするデフレの世の中になったのである。今の借金が10年後に雪だるま式に膨れ上がり、借金の価値が上がってしまうという世の中で、国はどうやって予算編成を行えば良いのか、家計はどうやって不動産などの大きな資産に投資すれば良いのか、見失ってしまったのである。だからこそ現在、日銀はインフレターゲットを設けて、2%のインフレ率が必要だとの前提条件のもとに政策決定を行っているのだが、インフレを起こす要素は結局物の需給バランスだと思うので、うまくいっていない。なぜかというと、供給を絞る事が出来ないからである。自由貿易が行われる前のいまよりも閉鎖的な市場においては、需給バランスは金融の緩和や引き締めで調整しやすい。国内の需給というのは金融政策に影響を受けるからである。しかしながら、金融政策の影響を受けない供給先、要は輸入品と言う事になるが、これがあまりにも増え過ぎた結果、金利をいくら下げてインフレを則そうとしても、海外からどんどん安い製品が入ってくることを誘発するだけで、物の値段が上がらない。現在の状況は顕著だが、輸入が出来ないもの、比較的しづらいものの代表は、不動産と、葉物野菜だと思う。不動産は分かりやすいが、葉物野菜も傷みやすいし冷凍しづらい、ということもあり、国内産が多い市場かと思う。日銀が金利を下げてモノの値段を上げようとすればするほど、他の物の値段は上がらないのだが、不動産と葉物野菜の値段だけが上がっている印象だ。葉物野菜は、雨の影響とか冷夏の影響とかいろいろ言われるが、毎年高値のニュースが出ている印象がある。これはインフレ誘導金融政策の影響なのではないかと思っている。しかしながら、いくらインフレに誘導しようとしても、自動車や機械、畜産物、水産物、衣料品、資源、こういったものは輸入品も多く、世界市場における価格というのがあり、それの動きに左右されている面が強い。だから日銀の金融政策では通用しないのである。

これが世界の先進国の日常となりつつあり、インフレが見込めなくなっているが、トランプ大統領の政策はこの先を見据えていたと言ってもいいだろう。自国の市場を積極的に閉鎖の方向に走ったのである。拡大通商法232条や、NAFTAの見直しが最たる例だろう。自国経済をインフレ路線に戻すためには、こういった鎖国政策が必要になってくるのである。恐らく、日本や欧州も今後は自国の財政健全化を目指さざるえを得なくなってきており、そうなるとインフレに頼る状況になり、おのずとトランプ大統領的な政策をとらざるを得なくなってくるだろう。完全に閉鎖する事は無いが、鎖国的政策の復活である。関税障壁を沢山持ち、自国内での経済循環を復活させて、インフレを目指していく。こういう政策を行わないと、財政が立ち行かなくなるのである。積極的に鎖国をしたいわけではなく、全世界の経済発展のためには自由貿易が必要なのは間違いないが、インフレがない世の中では国家運営が成り立たないので、それを避けるための消極的な鎖国的政策、こちらの方にOECDの先進国なんかは政策が傾いていかざるを得ないのではないか、と思っている。

出口戦略について

出口戦略について

世界的な株式価格の上昇がみられており、それに伴い資産効果なのか、リスクテイク、リスクオンというムードになってきた。半年前には考えられなかったが、株式の大幅上昇、銅やニッケルや原油のような投機性がある商品価格の上昇、仮想通貨の上昇、新興国通貨の上昇も見られるようになってきた。資金があふれ出し、株高による資産の増加も伴い、特にプロ投資家、資産かがリスクを取るようになってきている。逆に安全資産である金や日本円は下がるという形になっており、リスクオンのムードは非常に強い。この流れは個人にも波及しつつあり、ムードであるから少なくとも半年は続くであろう。

ムードというのは伝わる相手によって伝わる速度が違うもので、敏感な人もいれば、鈍感な人もいる。敏感な人が感じ始めるところから鈍感な人が感じ始めるまで半年や1年かかるだろうから、ムードに彩られた相場はある程度長く続くものだと思う。この調子で個人のリスクオンムードも2021年は続いていくだろう。コロナの方で言うとワクチンは一定の効果を上げるだろうから、2021年内の相場は強気に展開していく事が予想される。

ではリスク要因というか不安要素は無いのか、という問いになるが、今のところ短期的には無い、と言えるのではないだろうか。紛争リスクというのは抱えており、中東での紛争リスクがあるかもしれないが、それとて原油にはプラスに働くだろうし、コロナでサプライチェーンが分断されても経済が劇的に持ち直した2020年という年を知る人たちはあまり動じないだろう。それくらい今回の相場は強気で不安要素が感じられない。

これを支えているのは国家による金融緩和と財政政策である。以前にも述べたが、これを国際協調という名で、主要国が談合をしながら進めているので、根本のところで投資家、資産かは強気なのである。何かあっても国が助けてくれる、これがムードを支える一番の要因になっており、まさにコロナ禍で演じられたのはこの点であろう。株式の下落、失業率の上昇、貧困の増加に対して、国家は出動する、このメッセージを好意的に受け取っているのが今のムードである。管制相場と呼ばれる所以でもあるが、これを世界主要国が足並みをそろえてやっている事が現在の相場に繋がっている。では、この政策は未来永劫続けられるのか、という点に対しては、今のところそうではないという意見が多いだろう。国家債務を無限に増やすことは出来るのか、という問いに対しては、Noという人が今のところ多く、米国の金融緩和も2023年には出口を探る、そういった形になっている。国家債務を無限に増やせるかどうかは、国によっても異なるので、今後の議論が必要ではあるが、出口を意識しなければならないと仮定した場合に、そこでソフトランディングする事が出来るのか、というのが問題になってくる。

ソフトランディングを目指すと、恐らくは金融緩和を簡単には止められなくなるだろう。一種の麻薬みたいなものであり、行きつくところまでいかないと、この金融緩和の出口という所にたどり着かないのではないかと思う。行きつく先というのは、コントロールできないインフレと長期金利の異常な上昇という事になるのだが、その影響が先に出るのは新興国と言われる国々であり、ドル建て債券の金利払いの増加、自国通貨の過剰な変動、これらによって経済がボロボロになる可能性がある。出口が意識され始めた時期に新興国の一部で恐らく影響が出始めるのだろう。資源を持たない貿易赤字国であるトルコ辺りはしんどいかもしれない。ただ、その影響を見守っていれば、先進国市場の資産価値というものは国に支えられる安定資産と呼ぶことができるかもしれない。コロナというきっかけが、主要国間の談合による、同時大規模金融緩和を許してしまい、それが魔法の杖のように働くことが証明されてしまったのである。この旨味については皆忘れないし、今後の危機の時にそういう対応をしない政府には国民からNoという審判が下る事になる。これからも主要国の資産価格は下がらず、リスクが新興国にマグマのようにたまっていく、そういった図式にならざるを得ないのかもしれない。

国家の債務

2020年11月12日の日記より

国家の債務

株式市場が好調で日本でも米国でも今年の最高値を付け、日本に至っては1991年以来の高値と言われている。中央銀行による金融緩和政策により金が余っていると言われて久しいが、先進諸国はコロナを受けて財政規律についての議論を一旦追いやり、金融緩和を進めている。これが株価、債券、金等の商品価格を支え、日本で言えば不動産の価格を維持する事にもつながっている。

これらがさらに個人消費を下支えしており、株価上昇につながるという好循環になっている。もちろん、中央銀行や各国政府が意図した方向に行っており、失業者を減らしたり、国民の所得を守る事に成功しているように見える。以前は、日本で言えば財務省が財政規律論者であり、例えばドイツなども財政規律の維持に関心を払っていたと記憶している。

コロナで傷ついた経済が金融緩和でコロナ以前よりも拡大する、これは大変結構な事であるが、それではこれをずっと継続すればいいのだろうか。米国ではインフレ率が戻る事が2022年末までないだろうと言う事で、2022年末までの金融緩和の継続は既に既成事実化しつつある。

では2023年は止める事が正解なのだろうか。2%程度の緩やかなインフレを起こすための金融緩和は無期限で継続すれば良いのではないだろうか。景気の下支え、さらにインフレによる相対的な国家債務の減少、ともに大きなメリットがあるので金融緩和は一生継続すれば良いのではないかと考えてもおかしくない。旧来の理屈だと、過度な金融緩和は急速なインフレーションを起こす可能性があり、急速なインフレーションは貨幣の価値を貶めるので、良くないという話だったと思う。ただ、貨幣の価値を貶めるというのは一国の話であり、一国のみが急速なインフレーションに陥ると、確かに購買力が著しく低下して、商品の輸入も出来なくなるし、国民の資産価値も国際的に見てみると低下する。ただ、経済というか国民の生産力と消費力が変わらない前提であれば、ハイパーインフレが起きても、国内の物価の上昇と共に、賃金の上昇が起こるはずであり、もし閉じた経済で、前提が変わっていなければ、問題は無いはずである。恐らくその場合に問題なのは、国家債務の増大を引き起こす事態が継続した場合には、消費力が停滞している事が前提となっており、物価の上昇に賃金の上昇が追い付かない事態が想定されているから、ハイパーインフレの恐怖というのが刷り込まれているのだろう。

ただ、国際協調を図りながら、日米欧と例えば中国も強調して、GDP比で同じ程度の金融緩和を強調して行ったらどうなるのだろうか。これは現在の世界に近い状況だと思うが、一国がハイパーインフレに陥る未来は想像しづらい。そういう状況下で日本でも財政規律を求めるような声は少なくなっているように感じる。この方法であれば、世界経済の安定や、むしろ一定の成長率を維持する事は簡単なのではないだろうか。現在の株価上昇はそれを反映しているのではないだろうか。

そういう意味で現在は日米欧中の4頭体制の資本経済の世界であり、これらがバスケット的に通貨をコントロールする世界になっている。これはある意味では自分たちを助けるためには非常に都合が良い政策になっているが、新興国、後進国と言われる国は同様に緩和を継続していかないと、国際競争という意味で果実を得られず、後手に回ってしまう。

しかしながらそれらの国の通貨は、多くの場合脆弱であり、外貨準備金が豊富か、国際収支が黒字でないと、売られるリスクが大いにある。トルコはハイパーインフレ対策のために金利の上げを見込んでいるが、これはインフレ対策、通貨下落対策にはなるが、国内経済にとっては引き締め策であり、資金の流動性が下がる。この相反する状態を綱渡りで政策運営していくのがこれらの国々の課題となり、経済の低迷か、インフレを選択せざるを得ず、今後ますます厳しくなっていくだろう。通貨が強力な国が自国のために財政規律を無視し始めた事の歪は、こういった新興国、後進国の通貨、経済にダメージを与えるのだと思う。特に資源がない国際収支が赤字な国においては、コロナ後の財政政策が強化されるであろう2021年以降は厳しい状況が続くのだと思う。これは超大国とそれ以外の国の溝を深める事になり、20世紀の大戦の引き金になったような状況を生み出してしまうのかもしれない。