国家債務

2021年1月29日の日記より

GDP比で国家の債務が戦後並みに膨れ上がっているという報道があり、一方で20年10-12月のGDPは財政出動によって米国ではプラスが維持されているという報道がある。財政出動をけん制するようで、財政出動の恩恵を有難がる報道にも見える。積極財政が国家にとってプラスなのかマイナスなのか、もちろん規模や状況、評価をどのスパンで行うか、これらの要素によって変わってくるものであり、一概に答えは言えない。

借金を将来世代に残すことになるという人もいるし、経済がシュリンクしたほうが将来世代が悲惨になると言う事も言えるし、これは難しい論点になっている。金額ベースで言ってしまうと、今まで数十年間そうだったように(日本はそうでもないが)健全な水準のインフレが起きている状況であれば積極財政で総需要を増やしていくという政策は支持されるべきであり、今日の100万円が50年後には10万円くらいの価値になるという事であれば財政出動はすべきだろう。

一方で本日(21年1月29日)の日経新聞にも出ていたが、GDP比の債務が膨らんでしまうと格付機関によって国債の格付が下がり、金利の上昇を招いてしまう懸念が書かれていたが、格付機関の怪しい位置づけはさて置き、短期的な国債の売りを招く可能性は無くはない。例えば日本で言えば国債の外国人の保持率はじわじわとは上がっているはずであり、国内消化が多いとはいえ、警戒はされるべきなのかもしれない。

ただ、ハイパーインフレのようなものを持ち出して危機を煽るのはやり過ぎだとは思う。そんな懸念は少なくとも10,20年はあり得ない。いづれにせよ、これらの論点が定まらないのは指標としている項目がそれぞれ相関しあっているからであって、どちらかが上がればどちらかが下がると言う事でバランスが取れてしまうというかトレードオフになってしまうからだろう。

例えば、住宅を買うなら金利が低い今だ、という言い方をする人がいる。金利とローンだけを考えればそうなのかもしれないが、金利が低く誘導されているのは実体経済の成長が無いからであり、商品物価という意味では価値が上がらないからである。すなわち投資利回りが見込めないという事になり、金利が低いのは平均的な家であれば、価格も上がらないからと言う事になる。逆に実体経済というかGDPの成長が続くような社会では金利を一定水準まで上げて過度なインフレを抑える。それがあったのが80年代までの日本であり、当時ローンと金利だけを考えたらもちろん金利は高かったのだが、資産価値も上がるサイクルだったのであり、これらは結局トレードオフされるというのが、ならしてみると結論だろう。財政出動についても、例えば他国並みの財政出動をする事に関しては、相対的な経済においては変動が無く、金利差による為替変動も最小限になるし、格付けについても結局相対的なものでしかないので、この一年間先進諸国はどの国も積極的な財政出動をしているが、どの格付け機関も通常時のように格付けを下げる脅しを使っていない。結局相対的なものでしかなく、絶対的な数字であるGDP比の何倍が戦後以来、というような議論はあまり意味が無く、相対的な変動の大きさでしか見る必要が無いのだろうと思う。

先述した金利と実体経済の観点から家を買うのは今なのか後なのかと言う事に関わる事を書いたが、そうは言っても不動産価格は異常に上昇しているではないか、という面がある。これは今後書いていきたいが、大きなファクターは違うところにあると思っており、世帯年収である。ここ10年で急速に変化した社会環境に女性の社会進出があげられる。厚労省の発表によると共働き世帯が1000万世帯から1400万世帯に増えたという資料を読んだ気がする。

これは飛躍的な上昇であり、2010年前後から圧倒的にトレンドが変わった。個人の給与所得は30年間横ばいが続いているが、世帯年収の増加がこの10年間で顕著に起きているのである。日本の世帯数が4000万世帯として、そのうち500万世帯が専業主婦世帯から共働き世帯に変わったと仮に計算すると、約12%がダブルインカムに変わったわけで、この変化は大きい。個人ではなく世帯で買うものの代表である不動産は勿論のこと、テレビが大きなテレビが売れるようになったり、高機能の冷蔵庫、洗濯機が売れるのも必然なのである。それ故に不動産価格はこの10年で大きく上昇し、このトレンドは落ち着くものの不可逆であり、不動産価格が下がる事はあまり考えづらいとも言える。 共働き世帯の増加は、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災が転機になっているだろう。とにかく世帯主の収入が安定しないと感じる家庭が増えた事で、女性の働くモチベーションが活発になり、社会運動として女性の働きやすさを求めるトレンドが発生したのではないか、と捉えている。もちろん、ウーマンリブ以来の社会運動の結果ではあるが、大きくトレンドが変わったのがその頃と考えると、日本の不動産価格が継続して上昇貴重なのも読み取れるような気がするのである。

税金の存在

ドイツでは補助金を活用して2030年までにEV販売を累計で1000万台販売するという記事が出ていた。一台当たり$10,000程度の補助になるらしいので、日本円にすると10兆円になる。10年での支出と考えると年間1兆円だが、ドイツ国民が実際は7-8000万人の人口だと思うが、計算を簡単にするために1億人とすると一人当たり年間1万円の支出になる計算。支出というか普段払っている税金から1万円相当分がEVの補助金になるという事である。もちろん3-4000万世帯あり、その内1/3の世帯が各一台を購入するとすると恩恵が各世帯当たり$3000得られると言う事になるので、平均3人家族とすると1万円を10年間払って3人分合計で30万円のリターンを得る事になるので、ほぼほぼ支払った分を享受する事になる。補助金が無いとEVを買わないで毎年の1万円が貯蓄か違う形で消費されると言う事になるので、政策分野に金を投じたいという政府の意思がある時はこういう方法は有効なのだろう。

国民全員を全て平均値で考えると、プラスマイナスゼロになるというのが基本的には税金の考え方だと思う。日本では軍事政権という名の幕府による政治が歴史的に長く、徴税は殿様の為という歴史が長い事で、税金はプラスマイナスゼロになるという考え方が寝ずいていないのではと感じる事もある。 いづれにせよ、「国民全員が平均的であれば」という前提であれば、政策分野に財政支出をする事はプラスマイナスゼロで帰ってくる。むしろ先ほどのEVの補助金と言う事で考えれば、先行的な国民への貸し付けになるので、健全なインフレが起きている状況下においては国民が有利と言える。

ただ、財政支出やもっと言えば政策で難しい論点は、国民全員が平均的では無いという事と、政策分野の一部の私企業なり個人なりが同時に利益を得てしまう事だろう。EVの製造やSupply chainに絡んでいる人には二重に好影響が与えられるが、既存のガソリンエンジンに絡んでいる人にはマイナスになる。これを産業構造の転換というのかもしれないが、企業やそこで働いている人にとって簡単な事ではない。また、EVにシフトする事が本質的に二酸化炭素の排出量の削減につながるのかという議論も決着はついておらず、ここには科学が必要となる。

温暖化の“主要因”が二酸化炭素なのかという議論すら完全な決着を見せておらず、証明は困難だと思っている。どちらについても科学的な議論が必要であり、しっかりとした検証が無いまま走ってしまうと、とんでもないほうに政策は暴走しかねない。科学の力というのは政策決定に与える影響という意味でも大事だし、政策決定を最終的に行う国民の化学リテラシーを上げるという意味で、教育の質、科学的な常識の情勢と底辺の底上げ、こういった事は国家で取り組むべきものだと感じる。教育をしていないと、その教育を受けてない世代が民主的な選挙をしても、政策判断を誤ってしまう。そうする事で税金が効果のない方向に使われることになり、国民財産を低減させてしまうのである。

ゆとり教育というのを訴えた世代があった。これは急激な経済成長の反動だったと思われる。ちょうどその世代が高校生の頃にツッパリ漫画が流行り、彼らが就職した頃にSMAPの「世界に一つだけの花」が流行りNO.1は目指さない、となった。今の50歳前後の世代になるが、学力を異常に軽視する風潮がある。一般社会においても「大学がどこかなんて関係ない」と事あるごとに言うのはその世代だ。その世代が親となりゆとり路線に走ったわけであるが、教育で子供を追い込むことは問題だが、勉強する時は勉強しておかないと、個人の将来だけでなく、国家の将来をも左右するわけである。

不動産価格についての考察

2021年2月10日の日記より

世の中そろいもそろって金融緩和を行い、市中にはお金がじゃぶじゃぶ溢れている。バブルを唱える声もあるが、日本に関しては大きな意味での金融緩和は今に始まったわけではないし、今後も出口は見えていない。物価上昇率が2%になるまで金融緩和を止めないと言う事は、物価上昇率が2%になるまで不動産価格は上昇するし、2%を超えたら金融緩和をしなくても価格は上昇するという事なので、いづれにせよ上がる。そういう観点ではバブルかもしれないが崩壊する事は無いという現象が起こっている事になる。

本来需要と供給で決まる価格が何故そういう動きをするかという点を考えると、まず一つには金融緩和による効果云々という説明はそれほど実は説得力がないという事だろう。株と違い不動産に占める実需の比率は高い。ここでいう実需というのは実際に人が住むという事であり、そこには払える額と払えない額という明確な基準があるわけで、不動産価格が金融緩和の影響だけで上がり続けるというのは株と違って、理屈が弱い。もちろん富裕層による投機的な動きというのもあるが、それはあるにはあるが、限られた範囲であり、実態として購入して住むなり、賃貸に出して借り入れる人がいるという事実があるからこそ不動産価格は上がっているとみる。

不動産を含む資産価格の上昇による恩恵を受けた層がいて、その層が高値の資産を購入している、これは一定程度の影響があるだろう。ただ、それにしてもここまでのムーブメントになるかというと疑問が残る。何故かというとそれ以上に重大な社会の変革がここ10年で起きているという点が見逃されがちだからだ。 それは何かというと圧倒的な共働き世代の増加である。ここ10年間で厚生労働省の発表によると1000万世帯が1400万世帯ほどに増加しているのである。今となってはむしろ常識とはかけ離れている感じで、性差別とも捉えかねないが、10年ほど前は女性は結婚すると会社を辞めるというのはまだ常識であった。常識は言い過ぎかもしれないが、実感としてかなりの比率でそうだった。会社の上司は寿退社を心配して、女性事務職のバックアップを多めに取ろうとか、人員補充を行うとか、そういった事は10年ほど前までは真剣に語られていたのである。

しかしながら、今の30代女性、もっと言えば20代女性は結婚をしても仕事を辞めないだろう。妊娠をすると育休を取得するだろうが、それでも辞めない比率が圧倒的に増えている。これはこういう事を発信すべき年齢層が性差別やセクハラを懸念してるからなのか、十分に発信しない事実であるが、驚くべき変化である。筆者の周りの知り合いとかを見ていても、今の30代前半の世代はもう結婚をして仕事を辞めるという感覚はほぼ無いように感じる。まさにこれくらいの世代が住宅購入を検討するのである。日本人の給料が上がらない、なのに不動産価格が上がるのは何故なのか。こういう疑問があるが、世帯年収は確実に上がっている。これは10年前と比べても5-10%は少なくとも平均で上がっているとみる。これが特に都会の中流層では起きており、中価格帯の住宅価格も上昇を続けているのである。この傾向はもう数年は続くかもしれない。もちろん小幅な上下動はあるだろうが、全体的なトレンドがここ10年で劇的に変化しており、戻る事は無いだろう。専業主婦世帯が今後増える事はあり得ない。これは女性の社会進出、働き方改革にもつながる話であり、逆戻りは無い。

そういう意味では、不動産価格はもう数年の上昇の後、ニューノーマルの価格帯で高止まりするだろう。例えば15年前の水準では異常に高いと思われるような価格が、今後の「通常価格」と言う事になる。「こんなことは起きえないし、過去の経験で言えばバブルだ」という人がいるが、これはこの10年の社会の大きな変化に気づけていない人であり、過去の水準が未来にわたって続くと思い込んでしまった日本人の盲点なのかもしれない。