最低賃金政策の功罪
米国では連邦政府による最低賃金の引き上げが議論の対象になっている。$7.5を$15にしようというものだ。労働者が受け取れる賃金という観点だけから見ると、良い政策のように見えるが、そもそも最低賃金を国が設定すると言う事にどういう意味があるのだろうか。そもそもアメリカでは州毎の最低賃金が存在しており、州政府が決めている。そういう意味で連邦政府が設定する金額にそれほどの意味があるのかという問題があるが、それはまず置いておこう。
最低賃金の設定というのは政策的には生活保護と同じく、低賃金労働者が最低限度の生活を送れるように、雇用主である企業に賃金の最低レベルを保証するように要請するものである。政府からの補助金があるわけでもなく、企業が支払う賃金を決めるものである。人権の問題から言うと重要視されてしかるべきであるが、雇用という問題から考えると、雇用というのは需要と供給で決まるわけであり、どこか自由な経済を捻じ曲げているようにも映る。最低賃金を人権の観点から引き上げるというのはもっともらしく聞こえる議論ではあるが、雇用主である企業からすると死活問題になり得る。
大手企業はまだ耐える事が出来るが中小規模の商店にとって死活問題である。事業を運営すればするほど、今まで想定していたコストを上回る経費が出ていく事になる。ただでさえ、コロナ禍で巣ごもり、オンラインという流れがあり、Amazon等のようなオンラインでの販売が出来るプラットフォーマーと、街の中小小売商店との格差が広がっているのに、さらに大きな負担となりかねない。今までは、例えば米国で言えばチップというグレーゾーンがあり、例えば個人経営のレストランで働き、時給が安いとしても、一生懸命働けばチップという恩恵があった。こういったグレーゾーンが中小規模の商店の活路に繋がっており、そこで働く人たちの需要があった。しかしながら米国でもチップは個々人のウェイター、ウェイトレスの成果物というよりは、レストランが一括して徴収して、従業員に必要に応じて分配するというシステムに移行しつつある。クレジットカードによる決済の普及により、現金でのチップが物理的に減少しているからやむを得ない面があるが、この流れも中小の個人経営の店にとっては、そこで働きたいという人たちの需要が減る方向に働く。 合理性をどんどん追及していった結果、中小規模の商店が苦境に立たされ、大手のチェーンやフランチャイズが勢力を伸ばす、というのは米国では既にかなり前から見られている傾向であるし、日本でもAEONがそうであるように、その流れは継続するだろう。大手の会社は福利厚生や、交通費、その他の待遇も元々しっかりしており、就業を希望している人が多く、その人のレベルも高くなるが、中小規模の商店はこれからどうしていくのだろうか。