人類とアルコール

人類は10000年前前後から、大麦を発酵させたり、ブドウのしぼり汁を発酵させたりして、アルコールを接種していた。意図的な醸造所の遺跡も見つかっているので、宗教儀式に必要なのか、それとも余暇としてなのか、いづれにせよ10000年ほどアルコールを接種している。

アルコールは基本的には肝臓で分解されるものであり、人体にとってはどちらかというと有害である。酵素による加水分解で分解して排出するものであり、人体に不可欠な栄養素ではない。ただ、衛生面においては、昨今毎日接している通り、アルコールは除菌、殺菌効果があるとはいえるので、あると便利で、現代社会では工業用アルコールが大いに生産されている。

宗教との関係でいうとモハンマドは部族内、宗教内での争いを防ぐために、イスラムの教えにおいてはアルコールの接種を禁じていた。これが現代でもイスラム社会では基本的にアルコールを接種しない所以である。実際、中東の国やインドネシアでもイスラム教の方々は飲酒をしないのが基本となっているし、公共空間ではイスラム教以外の人間も飲酒を避けるように、というのがマナーになっている。

食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか

イスラム教というのは砂漠で発生した宗教なので、まず生活の基盤において水分を欲しているというのがある。礼拝ごとに顔や手を水で洗うのもその歴史的な背景が影響しているだろうし、アルコールも、他の地域以上に民が酔っ払いやすかった可能性もある。それが争いに発展しやすいということなのかもしれないが、地理的な背景もあるのだろう。

アルコールは脳を麻痺というか、俗にいう酔っ払う状況に導く作用がある。これは初期のころは恐らくは宗教儀式上重要な意味を持っていたのではないかと思われる。アルコールが脳を麻痺させるから酔っ払うという科学的な知識がない中で、大麦を発酵させたものやブドウ汁を発酵させたものを飲むと、人によってはトランス状態になる、というのは宗教家を興奮させたはずだ。

古代の宗教というのは一つに麻薬的な成分によるトランス状態や、飲酒によるトランス状態を起こし、その中で例えばまっとうな感覚を持つ人間がコントロールしたり、トランス状態を見せつけるなどして、人智を超えた存在を見せつける、というのも一つの統治形態であっただろう。その辺りが、ビールやワインの醸造所が作られた期限ではないかと思う。権力維持のために醸造した始めたものが、大衆にも広がっていた、そう見るのが妥当ではないか。

日常的にビールを飲む生活を日本でも享受できているが、アルコールには色々な面がある。そもそも人体には毒であること、殺菌作用は重要であること、宗教によっては禁忌品であり、宗教によってはその統治に活用されたであろうこと、非常に単純な化学式であらわされる化合物であるが、その奥深さに驚かされる。なぜそもそもアルコールは脳に麻痺症状を起こさせるようになったのか、これも恐らく生物の進化と関係しているのであろう。この部分をもう少し掘り下げたいとは思っている。