2020年11月30日の日記より
金融緩和と財政政策
財政規律という言葉を聞かなくなってきたと感じる。国家予算のプライマリーバランスをゼロにするというのは景気が良いと良きに予算の締め付けの理屈として出てくるが、現在のようなコロナ禍は緊急事態と捉えられている節がある。緊急事態であれば財政規律を気にしなくて良いというのも無理やりな理屈であるが、そうであっても時限的にやるとかをしないと今までの話との矛盾を感じざるを得ない。
そもそも財政規律というのはどういった議論なんだろうか。よく言われる議論であるが、家庭の借金というのは多くなりすぎると自己破産をせざるを得なくなるから借金は少ないほうがよく、国家の借金も累計債務が何百兆円で国民一人当たりの借金は何百万円だから、将来世代に重荷を残す、これが財政規律派の理屈になっていたのだと思う。一見もっともな話のようだが、一般家庭にしたって、将来の稼ぎを見込んで借金をして、自己の資産を増やすという住宅ローンを組んでいる人は少なくない。富裕層よりも一般的な所得層でも大きく用いられる手法である。住宅ローンを組むことで、生活の基盤を安定させて、しかしながら何千万円という借金を将来の収入で返すという姿にして、現在の収入以上の生活を行う、これは現代的な資本主義経済の下で生活している人間にとって、ごく一般的な手法である。
国家の借金も理屈は同じであり、将来の稼ぎはインフレ率も考慮したうえで、現在の稼ぎよりも大きくなるから積極的に借金をして、現在の稼ぎよりも大きなレバレッジを効かせて経済を大きく成長させる、その成長がさらに将来の稼ぎの拡大につながるので、将来に返済できる規模であれば、財政出動を積極的に行い、現在の稼ぎを大きくさせるというのが赤字国債発行の大義名分になるのだろう。
ここで問題になるのは、過剰なインフレを引き起こす可能性があるリスクであったが、日本という国で見るとむしろデフレの方が問題になっている。デフレ状態になると、現在時点よりも将来の稼ぎが小さくなるので、相対的に借金を返す力が無くなって行ってしまう。
今問題となっているのはこの部分であり、日銀にしても政府にしても物価引き上げに必死になっている。赤字国債の問題と連動しているが、赤字国債そのものよりも物価が上がらないことが本質的な問題となっている。赤字国債多発による信用喪失、ハイパーインフレというシナリオも過去には言う人はいたが、これはほとんど日本円においてはリスクとは言えないだろう。最近は誰も言う人がいなくなったが、何故ハイパーインフレが起きないか、デフレが進行してしまうのか、問題の本質となる現象があり、これはひとえにグローバル化の影響と言える。
お金を刷っても国内だけの話ではなく、その資金は海外の資産に流出していく。これが国内の資産との対比においての、お金の価値の低下に直結するという以前のようなクローズドの市場ではなくなっている。いくら一国がお金を緩和して印刷しまくっても、それを使って投資する対象資産というのは、世界中で見ると莫大になるので、日本円を刷りまくっても、紙幣の価値という意味では薄まり方はほぼゼロに等しかった。これはデフレという観点でもそうで、結局国内で緩和を行い、競争力がある製品を作ろうとしても、海外から安いものがいくらでも入ってくるし、国内企業についても世界で戦うために海外工場で生産したものを日本で売ろうとしている。
これらが引き起こしているのがデフレであり、さらにはこれは海外の低賃金の国の労働力で生産しているので、国内の賃金上昇につながらず、ますますデフレのスパイラルは加速していく。このデフレスパイラルは国内の需給環境で語られることが特に15年前くらいは多かったが、グローバル化によるところの方が多いだろう。不動産の価値が右肩上がりな事と、葉物野菜の値上げの話をよく聞くのは偶然では無いと思われる。これらは国外から持って来づらいものであり、というか不動産は持って来ようがないが、これらは日銀の金融政策によるインフレの恩恵を受けているのである。ここにだけ、クローズドの国内的な考え方が起きており、今後はハイパーインフレ的になってくるのかもしれない。しかしながら大多数の物については、グローバル化の理屈の中でインフレを起こせずにいるというのが実態であった。
しかしながら、基軸通貨である米ドルが大きく緩和に舵を切ったのが今年のコロナである。欧州も追随している。さらに米国は民主党政権となった事で、さらに大きな政府を目指し、どんどん国債を発行していくだろう。
日本の例で国債の乱発はインフレを起こさないという前例があるからという話もあるかもしれないが、日本円と米ドルでは影響力が違い過ぎる。米ドルの信認が揺らぐことで、ドミノ的に信頼が揺らぐ通貨が乱発する恐れがある。民主党政権に移行した後に恐らくドル安にはなるだろうが、下手すると数か月から一年以内に大きなドル安、米国民の資産価値が相対的に大幅に切り下げられるような形が出てくるかもしれない。これは歴史的に見ても、米国の一人勝ちの終焉という大きな流れとも合致しているようであり、避けられないのかもしれない。そのためにバイデン大統領が選出された、ここは穏やかに米国主義の時代の終焉を見守ろう、そういった意思表示とも見れる気がするのである。