国家の債務

2020年11月12日の日記より

国家の債務

株式市場が好調で日本でも米国でも今年の最高値を付け、日本に至っては1991年以来の高値と言われている。中央銀行による金融緩和政策により金が余っていると言われて久しいが、先進諸国はコロナを受けて財政規律についての議論を一旦追いやり、金融緩和を進めている。これが株価、債券、金等の商品価格を支え、日本で言えば不動産の価格を維持する事にもつながっている。

これらがさらに個人消費を下支えしており、株価上昇につながるという好循環になっている。もちろん、中央銀行や各国政府が意図した方向に行っており、失業者を減らしたり、国民の所得を守る事に成功しているように見える。以前は、日本で言えば財務省が財政規律論者であり、例えばドイツなども財政規律の維持に関心を払っていたと記憶している。

コロナで傷ついた経済が金融緩和でコロナ以前よりも拡大する、これは大変結構な事であるが、それではこれをずっと継続すればいいのだろうか。米国ではインフレ率が戻る事が2022年末までないだろうと言う事で、2022年末までの金融緩和の継続は既に既成事実化しつつある。

では2023年は止める事が正解なのだろうか。2%程度の緩やかなインフレを起こすための金融緩和は無期限で継続すれば良いのではないだろうか。景気の下支え、さらにインフレによる相対的な国家債務の減少、ともに大きなメリットがあるので金融緩和は一生継続すれば良いのではないかと考えてもおかしくない。旧来の理屈だと、過度な金融緩和は急速なインフレーションを起こす可能性があり、急速なインフレーションは貨幣の価値を貶めるので、良くないという話だったと思う。ただ、貨幣の価値を貶めるというのは一国の話であり、一国のみが急速なインフレーションに陥ると、確かに購買力が著しく低下して、商品の輸入も出来なくなるし、国民の資産価値も国際的に見てみると低下する。ただ、経済というか国民の生産力と消費力が変わらない前提であれば、ハイパーインフレが起きても、国内の物価の上昇と共に、賃金の上昇が起こるはずであり、もし閉じた経済で、前提が変わっていなければ、問題は無いはずである。恐らくその場合に問題なのは、国家債務の増大を引き起こす事態が継続した場合には、消費力が停滞している事が前提となっており、物価の上昇に賃金の上昇が追い付かない事態が想定されているから、ハイパーインフレの恐怖というのが刷り込まれているのだろう。

ただ、国際協調を図りながら、日米欧と例えば中国も強調して、GDP比で同じ程度の金融緩和を強調して行ったらどうなるのだろうか。これは現在の世界に近い状況だと思うが、一国がハイパーインフレに陥る未来は想像しづらい。そういう状況下で日本でも財政規律を求めるような声は少なくなっているように感じる。この方法であれば、世界経済の安定や、むしろ一定の成長率を維持する事は簡単なのではないだろうか。現在の株価上昇はそれを反映しているのではないだろうか。

そういう意味で現在は日米欧中の4頭体制の資本経済の世界であり、これらがバスケット的に通貨をコントロールする世界になっている。これはある意味では自分たちを助けるためには非常に都合が良い政策になっているが、新興国、後進国と言われる国は同様に緩和を継続していかないと、国際競争という意味で果実を得られず、後手に回ってしまう。

しかしながらそれらの国の通貨は、多くの場合脆弱であり、外貨準備金が豊富か、国際収支が黒字でないと、売られるリスクが大いにある。トルコはハイパーインフレ対策のために金利の上げを見込んでいるが、これはインフレ対策、通貨下落対策にはなるが、国内経済にとっては引き締め策であり、資金の流動性が下がる。この相反する状態を綱渡りで政策運営していくのがこれらの国々の課題となり、経済の低迷か、インフレを選択せざるを得ず、今後ますます厳しくなっていくだろう。通貨が強力な国が自国のために財政規律を無視し始めた事の歪は、こういった新興国、後進国の通貨、経済にダメージを与えるのだと思う。特に資源がない国際収支が赤字な国においては、コロナ後の財政政策が強化されるであろう2021年以降は厳しい状況が続くのだと思う。これは超大国とそれ以外の国の溝を深める事になり、20世紀の大戦の引き金になったような状況を生み出してしまうのかもしれない。